株式会社STORY&Co.

【体験レポート】東京と土と水と野菜―ライフフードでつなぐ料理の食べ方

■あれも、これも、食べられるもので

食べることは生きること。
生きることは食べること。
あなたはどう生きますか?

この言葉に迎え入れられるように、私は奥浅草のフレンチレストラン「et vous?(エヴ?)」に入る。

オシャレな店内装飾だなあ、と思っていると、あれ?なんだかよく見る飾りつけと違っていた。壁にかけられているのは…根っこが付いたブロッコリーに、カブをくりぬいたキャンドルに、大根の皮でできた蝋燭立て。

不思議な世界に入ってしまったかのように、私は目をきょろきょろ。
今回は、東京メトロが主催する、初めての体験イベント。そんな記念すべき第1回目は、人気フレンチレストラン「「et vous?(エヴ?)」と、NINO FARMの合同イベントです。

まだ開場時間前なのに、ほとんどの参加者が外でお店が開くのを待っているほど心待ちにしている様子。お店の中では、あわただしくシェフらしき人が用意をしていました。

ところでどうして東京メトロさんが、野菜をテーマにイベントを行うのでしょう。
私自身とても気になっていたこの組み合わせ。実は、地下鉄の印象が強い東京メトロですが、東西線の東側には、地上に出ている区間があるのだといいます。
鉄道会社が課題とする「高架下の活用方法」。駅から少し離れた高架下は、お店を誘致しづらいし、だといって何もしないのはもったいない。そこで始めたのが東西線西葛西駅~葛西駅間の高架下に建てた完全人工光型植物工場で育てた水耕栽培の野菜「とうきょうサラダ」だったのです。
とうきょうサラダを担当している東京メトロの柴崎さんは、入社してすぐに植物工場の担当に配属され、3年もの間、毎日美味しい野菜を作るために研究を重ねているといいます。
地下鉄の会社に入ったのに、まさか野菜を担当するとは思わなかったと話す柴崎さん。
野菜や農業に関する知識はゼロ。何から始めたら良いのかさえも分からなかったけれど、毎日野菜と接していると不思議と愛着がどんどん湧いてきて、今では試行錯誤を繰り返しながらも、より美味しい野菜を作るのが楽しくなってきたのだとか。

そんな東京メトロの想いが詰まった「とうきょうサラダ」は現在、ベビーリーフ、レタスを中心に作られていて、土や農薬を一切使用しない人工光を使用しているからとにかく安心。すっきりとした味は多くのホテルやレストランで受け入れられ、私たちに提供されています。
そしてそんな「とうきょうサラダ」を使用しているお店の一つが、et vous?さんなのです。

■「あなたと」食べる

「et vous?」という名前は、フランス語で「あなたと」という意味。
et vous?の岡部勝義さんは、ライフフードデザイナーとして、料理だけでなく食に関する全てのことをデザインするという活動をされています。
そこで提唱されたのが、「LIFE FOOD」のルール。
美味しく食事を取るうえで大切な6つのことが、岡部さんの優しい言葉でまとめられています。

なぜこの料理はこの切り方で、この大きさに調理されているのだろう。なぜこの量で盛られているのだろう。その一つ一つに、実は作る側の想いが込められているのです。
それから大事なのは「誰と」食べるかということ。どんなに美味しい料理でも、緊迫した雰囲気の中で食べる時と、好きな人とたわいもない話をしながら食べる時では、まるで味の感じ方が違う。食べ物が人の身体に入っていくまでの過程を全てデザインし、楽しく美味しく食べてもらおうという想いが岡部さんの笑顔には隠されていたのでした。

ところで中華料理と言えば麻婆豆腐、イタリアンと言えばピザ、などというように、それぞれの料理によって代表的な料理名が出てくるものですが、「フランス料理」といわれてぱっと思い浮かぶものがないのは、私だけでしょうか。
いえ、フランス料理には確かに、代表的な何かがないのです。

フランス料理には、生クリームや油など細かいところまで気を配っているのですが、どんなに良い食材が使われていても日本人の風土や味覚に合っていなければ、私たち日本人の記憶からはスッとなくなってしまう。
そんなフランス料理の位置づけを何とかしたいと思った岡部さんは、「料理を美味しくするために方程式を具現化していく」ことを決めます。

それは、分かりやすく言うと、どのようにこの料理が作られているのかをはっきりさせるということ。
おじいちゃん、息子、孫の3人で食べる機会があった時「美味しかったね」と思い出してもらえるような、世代問わず食べられるフランス料理を生み出したい。
そんな岡部さんの強い思いから生まれたフランス料理を、今回は特別にデモンストレーションしてもらうことに。

■農業に触れるということ

と、その前に、今回の体験を提供してくれる方をもう2人ほどご紹介します。
NINOFARMと呼ばれる団体の二宮聖也さん。
NINOには、日本の(NI)農業(NO)を考えるという意味が込められていて、「いただきますの向こう側」を考える各イベントや農業体験を考え、提供しています。
そんな二宮さんは、普段は農林水産省に勤める超エリート。会社勤めになればなるほど現場から遠ざかってしまうことを懸念した二宮さんは、普段の仕事を生かして実際に取り組むことを意識し続けました。NINOFARMができてからは、より日本の農業について考える機会が増えたといいます。
そして何より、農業を通して得られたのは、参加者の笑顔。みんなで作った野菜を収穫するときの達成感とその美味しさはちゃんと比例しているんです。
あ、そういえば壁に掛けられているブロッコリーやかぶを作ったのは、NINOさんの野菜でした。こんなに根っこって長いんだ…

それから、NINOさんのおもてなしはまだまだ続きます。
二宮さんと一緒に活動している松本純子さんは、今回「フィンガーフード」体験を私たちに教えてくれるようです。
松本純子さんもまた、普段は中央省庁で働きながらも「生産者と消費者の想いを繋げたい」との思いでフードアナリストや野菜ソムリエの資格を取得。実際に体験したことを松本さんがブログや雑誌の記事に載せると、その影響力はすごいのだそう。
ところで「フィンガーフード」という、この聴き慣れない言葉は一体何でしょうか。

これは、誰でも簡単に食材を選ぶだけで楽しめちゃう不思議な体験のこと。松本さんが用意してくれた食材は、蝶の形に切り抜かれていたり、お花が添えられていたりとフォトジェニック感満載です。実はこの「インスタ映え」が現代の食を楽しむうえで欠かせないことなのだとか。

皆さんおしゃれに盛り付けしています。私も最初はオシャレを意識しようとしたのですが…食いしん坊な性格が出てしまい、好きなモノを取るという大誤算(笑)。

なんとかオシャレにしましたが、すぐにおかわりしに行きました(笑)。

■食べるものの作り方を見る

さて、おまちかねの岡部さんによるデモンストレーションです。

岡部さんによると、料理は全て手順を踏めば作れない人はいないといいます。だしはなんと昆布茶だけ。これから食べる料理の作り方を見ることで、手がかかった料理への感謝の気持ちが生まれてくるから、「作り方を見る」ことは大切なことだと思うのです。

そして実際に完成した料理が私たちの前に。

昆布茶だけとは思えない深いだしが出ていて、とても優しい味。鯛をベーコンで包む料理なんて初めて食べたはずなのに、一つ一つの食材がしっかりしているせいか、どこか懐かしくて温かい。この料理だったらきっと、世代問わず楽しめることができるんだろうなあ。

■ごちそうさまの挨拶

東京メトロが愛をこめて作った水耕野菜と、NINOFARMが一生懸命育てて作った野菜。そしてそれらを岡部さんが想いと感謝を込めて仕上げてくれたコラボ料理は、私たちを笑顔にしてくれた。初めて会った人たちなはずなのに、「美味しいですね」という一言から不思議と会話も弾んでいきます。食べ終わるまで、私たちの間には温かい時間が流れていました。

そして食べ終わったらみんなで「ごちそうそま」。
作った人のために、食べ物のために。
私たちが楽しく食べれるような「LIFEFOOD」のルールに、今日の物語はちゃんと当てはまっていたのでした。

 

早川遥菜


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