株式会社STORY&Co.

【レポート】19年2月27日札幌、旅するトーク(テーマ:食)

■初めての北海道

足跡のない田んぼが、飛行機に乗っていた私の真下に大きく広がっていた。
どこまでもどこまでも、だれも足を踏み入れた跡のない、真っ白で美しい銀世界。
ただ真っ白なだけの田んぼはどこか物足りなくて、今すぐ飛行機を降りて足跡を付けに行きたいくらいだ。
札幌で旅するトークが広がる瞬間。
そして私にとって初めての北海道。
どんな「アウタビ」になるのでしょうか。

■旅が始まる前から

ゲストが旅に加わる前に急いで準備をしなくては。椅子を並べたり、アンケートを配ったりと私も一緒に準備にとりかかり始めると、なにやら美味しそうな匂いが。
思わず顔を上げると、2人の男の人がなにやら真剣な顔でおもてなしの準備を始めていた。
どうも私に身の覚えのないある2つの食べ物が着々と準備されているらしい。

少しずつ人が集まってくると、私も思わず胸が高まる。
「アウタビ北海道」の記念ステッカーを配るとすぐにスーツの胸ポケットの辺りに張ってくれる人、優しいジョークで私の緊張を慰めてくれる人。さっそく北海道の人に助けられてしまった。
そしてあんなにたくさん並べたはずの椅子はあっという間に旅の参加者で埋まった。トークが始まる前から、既に井戸端ゲストの周りには用意された食材を囲んで会話が弾んでいる。いちいち目が潤んでしまうのは寒い街のせいだろうか。こんな光景を見るのは初めてな気がした。
旅のエネルギーチャージが満タンになったところで、いよいよ「札幌旅するトーク」が始まる。

■北海道を盛り上げたいという想いが

旅するトークではいつも、「皆さんどこから来ましたか」という質問をするのだが、今回の開催地は北海道。いろんな町の名前が挙がったが、私はそこがどこにあるのかわからない。
そして一番驚いたのが、東京からと神奈川から来た人がいたことだ。
このお2人、実は今までの旅するトークに参加したことがある、リピーターの方だった。
「北海道で旅するトークがあるなら行かなくては!」
嬉しいです。北海道の地でまた会えるなんて。

今回の「札幌、旅するトーク」はアウタビ北海道のキックオフイベントと位置付けられており、アウタビ北海道を手掛け、今回ホストとしておもてなしをしたのは北海道ガスに勤める松森拓東さん。
東京で開催される旅するトークに松森さん自身参加したこともあり、是非大好きな北海道でも旅するトークを広めたいということで、今回の開催が決まった。

松森さんは北海道の旭川市出身。幼き頃からピアノを弾いていたけれど、18歳の時その道が突然失われ、けれどピアノ・音楽の道を諦めきれなかった松森さんは、東京へ飛び出す。でも何をしたらいいのかわからなくなり、気づけばホームレスとなっていた。そこで出会った名前も知らないホームレス仲間のおじさんに諭されたことがきっかけで再び起き上がる決心をし、様々な仕事を経て大学に進学。卒業後に大好きな北海道に戻るのは自然なことだった。

「戻りたいけれど職がない」という移住に関する友人の悩みを聞いたのは、北海道ガスで北海道のために働きだしてから。大好きな北海道に再び戻れるような環境を整えてあげられるにはどうしたらよいか―
北海道にはこんなに素敵な人がいて、今日も誰かのために一生懸命頑張っている人がいる。もしかしたらそんな人々を伝えることが、北海道に帰りたい人に手を差し伸べることができるのではないか。
そんな風に考え出したときに、松森さんは、旅するトークに出会った。

■夢を叶える街と人と

そんな松森さんが紹介してくれるゲストスピーカーは3人。最初にストーリーを話してくれたのは、松森さんと高校の同級生でもあり、青色に不思議な色のまだら模様が特徴的なパーカーを羽織った、笑顔が素敵な元気な人だった。

「はじめまして。『ブルーチーズドリーマー』の伊勢昇平です!」
ブルーチーズドリーマーとはなんだ?ゲストのみんなが不思議な顔をするなか、伊勢さんはニコニコ顔で続けて言う。
「僕は夢を叶えるのが仕事です」
ますます謎が深まる。この人は何をしている人なのだろう。
まず、不思議なパーカーの正体は、伊勢さんが作っている「ブルーチーズ」を意識されて作った、世界で一つだけのブルーチーズパーカー。伊勢さんは一人で作っているため、歩く広告塔になってブルーチーズを広めているのだそう。爽やかな青色に伊勢さんの笑顔が重なって、本当に素敵だ。
そんな伊勢さんが大切にしているのが、自分の故郷「江丹別」という街。
私は伊勢さんに会うまで、江丹別という街を知らなかった。それもそのはず、60年前までは3000人いた街の人口が、今では280人ほどしかいない小さな街になってしまった。「何もない」故郷に伊勢さんはコンプレックスを感じ、ビッグな男になるにはこの街は小さすぎる、と早くこの街を出たがった。
ビッグになるには英語が必要だと感じた伊勢さんが高校二年生の頃に出会ったのが、ある一人の英語の先生。
「お前の親父は牛乳絞ってんだろ。じゃあその牛乳で世界一のチーズを作るのも、ビッグになる一つの道だ」
当時酪農をしていた父を恥ずかしく思っていた伊勢さんの考え方が大きく変わった瞬間。
江丹別が小さいからビッグになれないのではなく、僕に夢がなかっただけだったんだ。

あまりにも目をキラキラと輝かせながら、江丹別について語る伊勢さんを見ていると、知らなかった街のはずなのに、風景が頭の中に広がって、笑顔な街の人々の表情が浮かんできて。ものすごく行きたくなってしまった。

そんな伊勢さんが考えているのが「世界一のチーズ作り」。

チーズが美味しければ、世界一になれるのだろうか。「あの人が作っているから」「江丹別で作られているから」
あの人とあの町とが繋がることで、きっと「世界一」は生まれるのだ。

■社会を考えるお菓子屋さんに

次に話をしてくれたのが、おっとりとしていて不思議な魅力が漂う、柴田アリサさん。

アリサさんはどんな人?と聞かれたら、一言では説明できない。経営者、お菓子屋さん、科学者、ディレクター…まだまだある(笑)。
すごいなあ、穏やかな印象からは、まさかこんなにたくさん活動されているとは思えない。

「どうして給食を残してはいけないの?」
小さい頃はすぐ「なんで?」を連呼する、好奇心が多い人だったという。
東京に上京したアリサさんは、大学で物理を専攻。しかし普通の実験よりもお菓子作りのほうに面白さを感じ、化学反応などと関連付けて遊ぶようになった。
卒業後、一度は東京に就職するものの、お父さんの病気をきっかけに北海道に戻ることになった。
そんなアリサさんがいつも考えの軸にしていたのが「安心・安全に」というキーワード。
ベジタリアンの人やアレルギーを持っている人など、食に対し敏感にならざるを得ない人たちが楽しく食べられるために何をすべきか考えるようになった。
そこでアリサさんが作ったのが、「株式会社 TREASURE IN STOMACH」
3大アレルギーともいわれる卵、砂糖、牛乳を一切使用しないお菓子は人々に「なんで不使用なの?」という疑問を持たせる。
世の中には、アレルギーを持っている人、好き嫌いの激しい人、宗教上食べ物が制限されている人など、たくさん食に悩みを持っている人がいる。そんな課題をもっと問題意識して、みんなで考える社会を作りたい。
お菓子作りは社会を考えるきっかけをつくる。お菓子に秘められた力を、アリサさんは信じているのだ。

今回はアリサさんが、卵、牛乳、砂糖を使用しないチョコフィナンシェを持ってきてくれたので、みんなで実食。

ふわふわのフィナンシェ、甘くてしっとりとしていて、卵、牛乳、砂糖が入っていないなんて考えられない。優しいアリサさんが作り出す味はいつまでも味わっていたいくらい美味しかった。

「私の会社名が長いから、領収書をお願いするときはいつも『??』って顔をされながらも、北海道の人は優しいからいつも頑張ってくれるんですよ」
おちゃめな笑顔で話すアリサさん。
そんな北海道の優しい人たちのトークも交えながら、旅するトークは進んでいく。

■想いと一緒に食材を

最後に話をしてくれるのが、またまた不思議な雰囲気をもった、佐々木学さんという方。
物静かな方なのかな…と思っていたが、実は誰よりも熱い人。
佐々木さんは、北海道大学の職員として普段は勤務されているのだが、今日のトークでは全く仕事について語ることはなかった(笑)。代わりに話すのは、とにかく、北海道の食について。
2歳の頃に、冷蔵庫の中に入っていたほうれん草をつまみ食いしたことは、親戚の中で割と武勇伝化。旅行先でお饅頭を買って、車を発進させながら一口かじって、あまりの美味しさに車を止めておかわりを買いに行ったのは、まさに「食いしん坊」という言葉がぴったりである。
そんな佐々木さんは生まれも育ちも北海道。
毎日美味しいものを食べているとその美味しさに慣れてしまい、また外部から来た人に「おいしいね」と言われ慣れていることにも気が付いた。
北海道の人って、実は案外北海道のものを食べていないのでは―
そこで、北海道大学の学生さんに紹介してもらい出会ったのが、「食べる通信」というサービスだった。

「食べる通信」とは、北海道の幸を提供する人の苦悩、想いをまとめた雑誌である。
そんな「食べる通信」を、食材と一緒に家庭に届けることで、より想いが食材に込められ、安心に食べることができる。佐々木さんはそんな素敵な雑誌の副編集長として、文だけではなく、イラストまで(すごくレベルが高い)書かれるスーパーマンなのだ。
そんな佐々木さんが持ってきてくださったエゾシカのスープは、まさに絶品。

…というか、私、シカ肉を初めて食べました。
食べたことのないものにチャレンジするとき、それはすごく勇気がいることだけど、佐々木さんが楽しそうに狩りの様子などを話してくれるから、感謝の気持ちをもって、楽しく食べることができた。

■北海道の人にも魔法がかけられて

今回の「井戸端イム」は、「あなたの好きな一品紹介」。
ゲストの人が考える、「あの町の、あの一品」を、料理名は口に出さずにその料理にちなんだ思い出や想いだけで語るという、簡単そうで難しいと評判の(笑)時間だ。
私はドキドキしていた。北海道の人が考える一品なんて、絶対美味しいに決まっているじゃん。
東京でも行われたこの企画だったが、北海道らしさが出たのは、まさにこの瞬間だった。
「僕の考えたおすすめの一品は、『アスパラ』でした」
え!?アスパラ???
素材そのものが答えに出たのは初めてだった。そうか…北海道はそのものが美味しいから、アスパラだって、お魚だって、それだけでちゃんとした一品なんだ。


一人一人が、思い思いの好きな食べ物を話して、答え合わせをして、そして気が付く。
私と話しているこの人は、誰??
気が付けば、相手の肩書も、名前さえも知らずに話していた。でも好きな食べ物をしっているだけで、なんでだろう、その人のこと、ずっと知っている気がする。
これが、旅するトークの魔法。
うふふ。魔法にかけられた北海道の人を見て、私は嬉しくなった。

■想いが共有されれば

「…まもなく、閉館です(笑)」
受付の人に言われて気が付く。気が付けば、時計は22時をとっくに過ぎていた。
あれ、解散したの、21時なはずなのに(笑)。
いつまでも絶えることのない会話。
北海道も東京も変わらなかった。想いを共有すれば、誰とだって仲良くなれる。
だって誰にだって物語があるのだから。

早川遥菜


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